粉雪2-sleeping beauty-
その瞬間、気付いたら殴り飛ばしていた。


頭で考えるより早く拳に痛みが走り、男はスローモーションの様に地面に倒れた。


夜の闇に映えていた純白のスーツは泥に汚れ、綺麗だった男の顔を歪ませていた。



『―――ってぇ…!』


口元を拭いながら体を起こす男を睨み付け、吐き捨てた。



「…一発は一発だろ?」


地面に転がった男の煙草は、ジリジリと赤い光を放って燃えていた。


それを見つめながら、俺は煙草を咥えた。



『…噛み付くねぇ、アンタ。』


「―――ッ!」



“威勢が良いのは認めるけど、誰にでも噛み付いてたら、てめぇが怪我するぞ?”


一瞬、隼人さんなのかと思った。


心臓は、再び嫌な音を打つ。



「…まだ喋れたのか。」


『…商売道具だっつーの。』


服についた泥を払いながら、男は新しい煙草を咥えた。


セットされていた髪の毛をかき上げ、眉をひそめて火をつける。



『…勘違いすんなよ。
今のは、“大事なツレ”を傷つけられて、ムカついただけだから。』


「―――ッ!」



“大事なツレ”…?


意味が分からない。


吹き抜ける夜風は冷たくて、俺の拳を冷やしてくれた。


生唾を飲み込みながら、目を見開いたまま体が固まってしまった。



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