粉雪2-sleeping beauty-
『―――社長、知ってました?』


嵐の所為で寝不足の俺にお構いナシに、真鍋は思い出したように声を上げた。



「…何が?」


『磯村っすよ、磯村!』


従業員の名前が出て、眉をしかめた。



『アイツ、すでに麻耶ちゃんと同棲してんすよ!』


「…誰だよ、“麻耶ちゃん”って。」


知っていることを前提に話す真鍋を横目に、興味もなく煙草を咥えた。



『ホラ、夏に会社の飲み会した時に居た子っすよ!
あの後すぐに付き合いだしたんすけど、ついには同棲っすよ?』


「…そりゃー、良かったな。」


棒読みで言う俺に、真鍋は腕を組んで怒り気味だ。


“早すぎっしょ?”と聞かれても、

俺的には、仕事さえちゃんと出てくれるなら、何でも良い。



『…まぁ、こんな話は良いんすよ、どーでも。』


“それより社長!”と改まり、真剣な顔をして俺を見据えて言葉を続けた。


『あれから、どーなったんすか?』


「…何が?」


『千里ママっすよ!
それに、彼女!』


そう言って、顔を近づけてきた。


その顔に向かって煙を吐き出しながら、仕方なく答えた。



「…何も。」


『何も?!』


“ないんすか?”と、肩を落とす真鍋。



『…まぁ、彼女と別れたんなら、良いっすけどね。』


「…あの女、マジでストーカー並だよ。」


『マジっすか?!』


口元を引き攣らせて言う俺に、真鍋も同じように口元を引き攣らせた。



本当はめでたいはずの従業員の同棲話は、結果的に、

あの事件の引き金を引くこととなった。


誰が悪いのかなんて、もぉわからない。


ただこれで、千里が幸せになれたのなら、俺にはそれだけで良い。


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