粉雪2-sleeping beauty-
「…昔さぁ、借金のカタに身分証奪うじゃん?
で、戸籍詐欺とかに使う為にヤクザに売ったりとかするんだけど。」


『…うん。』


「…イキナリ隼人さんから電話が掛かってきて、“お前その前に、ビデオ屋行ってこい”とか言うんだよ。」


話し出した俺を、千里は不思議そうに見る。


「…“それで適当にビデオ借りて来い”とか言われて。
ハァ?ってカンジじゃん?」


俺の言葉に、千里は思い出したように口元を緩ませた。


「…で、仕方なく借りて持って行ったんだよ。
そしたら、何て言ったと思う?」


『…何て言ったの?』


「…“何で少林サッカーがねぇんだよ?!”とかキレられて。
しかも、“うちの女が観たがってたアイス・エイジがねぇじゃねぇか!”とか言われてさ。
知るかってカンジだよ。
その時俺、マジであの人の下で働くのが嫌になったもん。」


『あははっ!でも隼人、“マツは使えねぇ!”とか怒ってたよ?』


笑いを堪えた千里が言う。


その顔に、俺はため息をついた。



「…つーか、お前が悪いんだろ?」


『あははっ!ごめん、ごめん!
でもあの時は、すっごい観たかったの。』



なぁ、千里…


俺達、こんな時まで何でこんな話してんだろうな?


流れ続けるDVDはうるさくて、だけど全然耳に入らないくらい笑ってたよな。


あの頃からお前はずっと、隼人さんのもんだったんだよな。


俺の為にオムライス作っても、俺の隣で笑ってても、俺があげた指輪つけてても、

お前は俺のじゃないんだよ。


隼人さんの話してる時のお前が一番笑ってる気がして、何か悲しくなった。


最初から分かってた筈なのに、ダメ押しされた気分だったよ。


“そうならないように頑張る”ってあいつらに言ったけど、俺じゃ無理だった。


運命を変える力なんて、俺にはなかったんだ。


だから、最期の思い出を作りたかった。



そして俺は、千里に笑いかける―――…



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