粉雪2-sleeping beauty-
車に乗った千里は、何も言わずに不貞腐れていた。



「…俺、何も難しいことは言ってねぇだろ?
飯食えば、何も言わねぇよ…。」



ホントは、ちょっとだけ嘘だ。


隼人さんの思い出だって、取り払ってしまえば良いんだ。



『…ごめん…。』


口を尖らせた千里が、小さく呟く。


その言葉に一つため息をつき、言葉を続けた。



「…心配さすなって、何回も言ったろ?」


『…うん、ごめん…。』


相変わらず、こんな調子だ。



だけど俺は、“甘やかさない”と決めたんだ。


荒療治なのは、わかってる。


でも、俺の中では“もぉ一年”なんだよ。




『…隼人、あたしのこと嫌いになっちゃったのかなぁ?』


「ハァ?」


ポツリと呟く千里に、眉をしかめた。



『…だって、いつまで経っても迎えに来てくれないんだよ?
夢でさえも、逢いに来てくれないんだ…。』


「―――ッ!」


『…あっちで可愛い子みつけたのかなぁ…。』


悲しそうに窓の外を見つめる千里に、俺は何も声を掛けることが出来なかった。


俺には、“そんなことない”とも、“きっとそうだ”とも言えなかった。



「…迎えに…来て欲しい…?」


そして、恐る恐る聞いた。



『…わかんない…』


千里の言葉は、たったそれだけ。


< 48 / 372 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop