だから、君に
「芹澤先生」

僕らが再び歩き始めようとすると、人込みから僕を呼ぶ低い声が聞こえた。

「あ、前田先生も」

振り返ると、制服を着た根岸と、彼に手を引かれた浴衣姿の麻生が立っていた。

「根岸くん、麻生さん。こんにちは」

ほんわかと笑いかける前田先生に、二人は軽く会釈した。

「見回りですか?」

「デートですか?」

根岸のよく通る声と、麻生の冷めた声が重なった。

「やだ、麻生さんたら。見回りよ」

少し顔を赤らめ、照れたように前田先生がはにかむ。

小さなりんご飴を片手に僕を見上げる麻生の目から、ひりひりとした苛立ちが伝わってきた。

「先生方も夏休みだというのに、お疲れ様です」

相変わらずかっちりした話し方で、根岸は僕に向き直った。

「あぁ、まぁ、仕事だから。それより根岸、なんで制服なの」

浴衣姿だけでなく、それなりにデート向きの服装をした男女が集うなか、根岸の制服姿は少し目立っていた。

「あぁ、これですか」

根岸は麻生から手を離し、自分のワイシャツを軽く引っ張ってみせた。


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