第六感ヘルツ
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1,日常モラトリアム




わたしは妻を愛していませんでした。が、妻はそれでもいいと言うので、わたしは結婚することにしました。


「ああ、しあわせ。わたし、貴方のためなら何でもするから」


妻がそう言った三日後、つまりは結婚三日後ですが、我が家は早速金に困りました。仕方ありません、わたしは無職ですから。


「食うものさえない、困ったな」
「待っていて、わたしが何とかするから」


妻がそう言うので、わたしはおとなしく待っていました。五時間ほどしてから帰宅した妻は若干覇気がなく、これ、とわたしに大金を渡したのです。給料の前借りにしてはだいぶな金額でしたが、何はともあれ食うには困らない金額だったので、夕飯はステーキにしました。

またそれから一週間後、今度はアパートが燃えました。どうやらわたしの寝煙草が原因のようです。妻とわたしは無事でしたが、大層な賠償金を支払うことになりました。


「困ったな、今ある金じゃ足りない」
「待っていて、わたしが何とかするから」


そう行って出ていった妻が、また、五時間ほどしてから帰宅しました。この間と同じように若干覇気がなく、これ、とわたしに大金を渡したのです。ここにきてわたしは思いました。どうやら妻は、コネクションを持っているらしいと。無事賠償金を支払ってから余った金で、豪華なマンションを買いました。そうしたらまた金がなくなって、食うに困ってしまったのです。わたしは何事にも無計画ですから、仕方ありません。


「いいのよ、わたしは貴方のためなら何でもするから」


そう言って妻は出掛けて行き、帰ってきては覇気がなくなっていきました。


「その眼帯はどうしたんだい?」
「物もらいよ、大丈夫」
「その傷はどうしたんだい?」
「ちょっとしたかすり傷よ、大丈夫」


いつまでも治らない物もらい、増えていくかすり傷。ベッドの中で見たそれは、かすり傷どころではなく縫合した痕のようにも見えましたが、わたしは気にしませんでした。何故なら、わたしは妻を愛していなかったからです。



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