第六感ヘルツ

43,レイニーバニー




「ぼくね、ここがいやなんだ」


その日は雨が降っていた。
そう言ったのは初めてだった。
今までずっと我慢していたことを言葉にしてみたら、なんだこんなものかと思った。


「ここじゃないところへ行きたいんだ」


どうして言葉にできたのかっていうと、目の前にうさぎがいたからだ。
どうしてとかは知らない、ただ、気づいたらそこにうさぎはいて、白い毛並みに赤い赤い何かをずるずると這い回らせていた。


「その赤いの何?気持ちわるいね」
「ひどいなあ」


初めてしゃべるうさぎを見た。
ひとりごとのつもりでいたから、すごくびっくりした。


「ごめんね」
「君は素直なんだね」
「でも、皆がぼくをきらうの」
「何でだろうね」
「何でかわかんない」


わからないけど、皆がぼくをきらう。
いらないんだって言う。


「ぼくがぼくじゃなくなったら、皆はぼくをすきになってくれるのかなあ」
「じゃあ、なる?」


簡単にそう言ったうさぎが、にやっとした。
にやっとした口からは、尖った八重歯が見えた。
うさぎに八重歯なんてあったっけ。


「どうでもいいじゃないか」
「ふうん」


そんなものかなと思って、とりあえず、ぼくがぼくじゃなくなるために、ぼくがここじゃないところに行くために、


「さあ、おいでよ」


またにやっとしたうさぎを追いかけて、ぼくは窓から飛んでみた。

その日は雨が降っていた。

(白い毛並みに、赤い赤い何かを這い回らせる妄想)



43,レイニーバニー【エンド】
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