タナトスの光
「痛ってぇ!」
悲鳴にも近い、彼の声が聞こえてくる。

どうやら、かなりの打撃を与えたらしい。

両手で顔を押さえている彼の隙をついて、あたしは助手席からドアを開くと無我夢中で、外へと転がり出た。

暗闇の中、どこをどう走ったのか。
気がつけば、大通り沿いに出ていた。

近くにあるコンビニの灯りが、まるでオアシスのように、輝いて見える。
あそこのコンビニから。
お店の人に頼んで、タクシーを呼んでもらえばいい。

一刻も早く、家に帰りたかった。

大通りを渡ろうとしたそのとき、車のライトが近づいて来る。

まさか、さっきの彼が追って来た?

あたしは身構えて、その車を凝視した。

でもその車は、あたしの前をそのまま素通りして行ってしまった。

勘違いだったことにホッとして、コンビニに向かおうと思った瞬間、自分のあられもない姿に気がついた。

あちこち破れて、見るも無残な白いワンピ。
こんな姿で、コンビニに入ったら、どんな風に思われるだろう。

でも、そんなこと、気にしてなんかいられない。
未遂だっただけ、まだましだ。

あたしは覚悟を決めると、出来るだけワンピを整えてから、コンビニに向かって近づいて行った。
< 15 / 37 >

この作品をシェア

pagetop