白いジャージ2 ~先生と青い空~



職場が変わったことも

車を買い換えたことも

おばあちゃんが亡くなったことも

覚えていなかった。



でも

時計を覚えていた。




消えてしまった記憶がもし戻らなくても

私の心の中にはお父さんとの思い出がたくさんある。




だから泣かないよ。



辛くても


悲しくても


泣くもんか。





私がしっかりしなきゃ。





お父さんは同じ質問を繰り返し、そのたびに私は丁寧に答えた。



見たものや、聞いたことを書き込むことができない為、数分前に聞いたことをまた聞く。



廊下では、先生とお母さんが2人で話をしていた。




お父さんの不安そうな目。



カーテンの山吹色。


少し時刻の遅れた壁掛け時計。


天井の不思議な模様。






どれも現実ではないようだった。




夢であればいいのにと


願った。






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