境界
 体験授業は二回だけだ。

 二回だけで英会話教室を気に入ってもらわなければならない。

 小学四年生となると、子供自身で自分の気持ちを主張できる年頃でもあるため、
親だけが納得しても子供は入学してくれない。
 愛香にも気に入ってもらわなければならない。
 この時ばかりは、真面目に授業をするだけでなく、
明らかに愛香を意識していた。

「愛香ちゃん、今日の英会話楽しかった?」

「うん、楽しかったよ。史彦先生。」

「じゃあ、また来てくれる?」

「うん」

ホッとしたというのが本音である。

「次も、お姉さんといっしょに来るの?」

英会話には関係ないが、思わず聞いてしまった。

「うん、いっしょに来るよ。」

思わずにんまりしたが、愛香には悟られまいと、

「じゃあ、待ってるね。」

と笑顔で見送った。

その時、幸子も笑顔で挨拶してくれた。
実は、この時僕ははじめて幸子と眼を合わした。

< 5 / 41 >

この作品をシェア

pagetop