明日、お兄ちゃんが結婚します

「理沙、お前目の下にクマあんぞー?」


悠は自分の指を目の下に当て、それを強調する。

ポケットから鏡を取り出して自分の顔を確認する。


鏡に映った自分はあまりにも惨めに見えた。

きれいな春菜さんには叶わない。

くっきりと移るのは真っ黒なクマ。げっそりとした頬。

ここのところ食欲があまりないせいか、ただでさえ体調が悪いというのに見た目すら元気なさそうだ。


「……」


「なんかあったの?」


「……」


「……ま。とりあえずあんま無理すんな。お前、もともとそんな体強くないだろ」


「……うん」



それだけいうと悠は教室を出て行った。

慌ててあたしも教室を出る。



付き合っている年月が長いだけ、悠はたぶん一番あたしのことを知っている友達と思う。

悠はあたしがお兄ちゃんを好きということをしっているのかは知らないけれど、きっとあたしの周りで何が起きたかを察しているとは思う。


もしかすると、それがお兄ちゃんの結婚に関与しているかもしれないということも。



***


「ただいま……春菜、さん」


「お帰りなさい。理沙ちゃん、待ってたわ。お父様もお母様も帰ってきてるわよ」



家に帰ってドアを開けると春菜さんが立っていた。

エプロンをしているというところを見ると、きっと夕飯でも作ってくれていたのだろう。


「あら、おかえりなさい。理沙、久しぶりだったわね」


そんな声とともに母がリビングからやってくる。

あたしはなんだか目をあわせられなくて、視線を下げたまま、久しぶり、とだけ言った。
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