恋口の切りかた
黒田虹庵は、
俺にとっては叔父に当たる人で、あの親父殿の弟だ。

親父殿とは六歳ほど年が離れていて、虹庵は確か今年で二十五だったか──。



結城家の三男に生まれた虹庵は、幼少の頃から医者を志し、
やがて江戸に上って師匠を見つけ医学を学んだらしい。



俺が幼いころは

時折城下に戻って来ては、道場にもよく出入りしていたので、
俺は兄のように思ってなついていたのだが……

ここ数年、蘭学を学ぶためと言って出ていったきり顔を見なくなっていた。


思えば──

俺が悪行を重ねるようになったのも、慕っていた虹庵がいなくなったことが理由の一つにあったかもしれない。


そんな虹庵は去年の夏にひょっこり戻ってきて、城下で開業した。

それからは医者の仕事をしながら、こうして道場にも頻繁に顔を出している。
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