恋口の切りかた
結城円士郎 の 章

一、辻斬り事件

 
 【剣】

私がその人と会ったのは、

そろそろ強くなってきた日差しを避けて、稽古を終えた私が一人で休憩していたときだ。


武家屋敷の並ぶ界隈には水路がめぐらせてあり、結城家の屋敷も塀(へい)の外をぐるりと水路が囲んでいる。
結城家ではここから庭の池に水を引き込んだりもしているようだ。

勝手口の近くの塀にはこの水路に降りられる階段があって、屋敷に奉公に来ている人たちが洗い物をしたりするときに使っている。


よく晴れた初夏の午後だった。


このとき私は水路に降りる日陰の階段に座って、

深い青色に咲いたカキツバタや
キラキラ輝きながら流れていく水面をながめて、涼を取っていた。


すると、

「きんぎょ~え、きんぎょ。きんぎょ~え、きんぎょ」

そんな耳慣れない物売りの声が聞こえてきて、私は何だろうと首をめぐらせた。


見ると塀の角から、二つの桶を天秤棒でかついだ物売りがひょいと現れた。



その物売りの顔を見て、一瞬──


狐狸が化けて出たのかと思って、私は自分の目を疑った。


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