恋口の切りかた
「ったく、心配したんだからな……!」

円士郎は私を軽く睨んで言った。

「留玖、お前な。
具合が悪い状態でホントなにやってんだよ。
こっちは町中走り回って探すハメになったんだぜ?」

疲れたような顔の円士郎を、私はマジマジと見つめた。


ひょっとして……


「ひょっとして、エンは今夜、私のそばにずっといてくれたの?」


「……おう」


円士郎はぶっきらぼうに頷いた。

「昼間、お前の様子がなんか変だったから……気になってよ」


そんな……そんな……!

私は、目が覚めた時のことを必死に思い出した。


「だって……
だって、目を開けたら、エンがいなくて、
だから、私……」


円士郎は溜め息を吐いた。

「厠に行って、戻ったらお前が消えてた。
びっくりしたぜ……本気で焦った」


私はようやく、自分がいくつもの勘違いを重ねて行動してしまったことに気がついた。


円士郎は、本当に昼間からずっと、眠ってる私のそばにいてくれて、

なのに私は、一人で勘違いして、
しかもエンが辻斬りをしてるなんて思い込んで、

屋敷を飛び出して──


もぬけの部屋に戻った円士郎の衝撃は、どれほどのものだったろう。
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