揺れる、山茶花
はなびら 伍





私は決して、後悔したかったわけじゃない。







「これ、コピー」

受け取った資料。
それをコピー機にかける毎日。
お茶汲みコピーお茶汲みコピー掃除お茶汲みコピー接待コピーコピーコピー。

往復する毎日。
退屈で平和で申し分ない。

仕事内容の割には高い給与で、私は満足していた。
平凡で、豊か過ぎない、穏やかな毎日。

仕事を始めた当初は毎分毎秒のごとく赤鼻を思い出していたのに、今は一週間に三回くらい思い出せば良い方だった。

正直、そんな自分にうんざり。

可愛い赤鼻。
えくぼができる赤鼻。
甘いキスをくれる赤鼻。


私の、赤鼻。

離れてなお、所有慾は消え去らない。
未だ、確かに愛しいと感じるのに。


意気地なしの大人は毎日毎日、あの甘い花を忘れるようにがむしゃらに働き通した。

それが高じて、先輩や上司にも可愛がられた。

それなのに、私のなかは空っぽだ。


空っぽなの、赤鼻。

───満たせるのはきっと、あんただけなのに。






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