蛙の腹
「しかし、すっかり寒くなったな。」

薄着してきたのを悔やむ。

働いて寒さを感じることこそ貧しく自分を思うことはないと思うが、無職の自分が寒くて当然のようなきがして温かさに恵まれないことに何の腹立しさも感じない。

赤頭巾チャンのようにマッチでも売っていける情熱があればまだ心持ち温かく自分を支えて行けるが、世間に恐縮して俯いて歩くことにする。

一体、どうやって裕福にコートを買って身だしなみを整えて女の子と付き合えるのかそれが不思議だった。

「きっとこれにも勉強してきた実績があるのだろうな。俺はまるで勉強をしなかったけど・・・・。」

なんて考えながら、駅の構内を歩いている。

いろんな人がいるもんだ。
みんな違う顔して愛するのも違う人。
それぞれが違う生き方をして、同じ時間に違う現実の状況を自分だけで消化している。

生きることは同じだが、その方法が異なるだけで決別した人たちに対して僕には愛する気持ちがある。
この構内に青い空と黄金の太陽が落ちてみんなが融けてしまえばいい。

コンコースの空調が物凄い勢いで、空をはらい、太陽を呑み込んでしまった。

今夜はきっと雨が降る。

雨に濡れてしまいそうだ。
雨粒には人の情念がひとつひとつに詰まっている。
天に昇り、人に帰る。地上の喧騒。
改札を抜けて6番線の階段をのぼる途中でメールを打つ。

「これから、そっちに向かいます。早くつくのでぶらぶらしてます。駅についたら電話して」
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