キャンディ
ケビンは仕事に出ていても、たとえ撮影で何日も帰れないとしても、家政婦を雇ってさくらの面倒を見た。

それこそ、ヒューメン.ソサエティー(動物愛護団体が活動してる動物シェルター)から貰い受けた、かわいい子猫を心配する飼い主かのようであった。

さくらも記憶こそ戻らなかったが、少しずつ笑顔を取り戻していた。

ルイだった頃の記憶がなくなってしまった今のさくらの脳の空白を埋めるように、言葉や人の名前、ケビンの好き嫌いなどいろんなことをスポンジのように覚えて言った。
いや、何も覚えていないことに対するさくらの不安感が、潜在的にそうさせていたのかもしれない。

ケビンは休みのたびにさくらを外に連れ出した。

少しでも時間ができれば、さくらをつれてセントラルパークまで散歩に出かけた。

ケビンにとって、そこで見るもの全てが、さくらと一緒であれば新鮮この上なかった。



双子用のベビーカーを押すジョギング中の母親。

芝生の上でサブをほおばるメキシコ人の作業員。

やっとヨチヨチと歩き出した赤ん坊をカメラに収める
父親と手招きする母親。

太陽の光が降り注ぐ中で抱き合ってキスをする若いカップル。

手をつなぎ犬の散歩をする老夫婦...。



ケビンはこのまま時間が止まることを祈った。
できればさくらの記憶がこのまま戻らないでいて欲しい。

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