キャンディ
「逃げたり、警察に垂れ込んだらどうするんだよ。」

「NYPDかい?そりゃ大丈夫だね。」

「日本に逃げたら?」

「それはまずいが、まずすんなりとは行かないだろうな。それにこの女は行方不明者だ。INSオフィス(アメリカ合衆国移民局)がだまっちゃぁいないだろうな。自分の名前すら覚えてないからな。どの道時間はたっぷりあるということだ。」

その後、さくらはもといたバーのあるビーチまで送り戻されていた。

ふらふらと一人濡れた体で道を歩いているさくらをバハマ警察がみつけ、所轄まで連行していった。

所轄のビルは到底警察署とは思えない風貌のトロピカルな建物だと、さくらは思った。

まぁ、ここら周辺の建物全てがトロピカルなので、そんなものか、とも思った。

中に入るとしごく普通な感じがして、そこには一人背の高い優しい面持ちの白人の男がバハマ人の警察に混じって立っていた。

男は前にニューヨークの病院でさくらを事情徴収した刑事だといった。その時はとてもしゃべれる状態ではなかったが。

とっさにさくらは感じた、「さっきの男と同じ男だ」と。

さくらは何もわからないふりをした。

「なんと言っていいのか。また大変な目にあったね。」

「...。」

「僕はNYPDから派遣された、ジョン.メイソン刑事です。君が抱えられて車に乗る瞬間を見ていた観光客が警察に通報したんだ。こうして無事でいてよかった。」

どうしてもさくらにはこの状況が把握できなかった。

どうして自分をさらった一味の人間がここに刑事として存在しているのかが。

「君はバリー.コステロという麻薬シンジゲートのひとつに狙われているんだよ。信じられるかい?」

さくらは驚いた風もなく、まだ渇かぬ濡れた髪をかき上げ、視線を落として聞いていた。

「僕はNYPDから特別任務をまかされて、君の護衛をすることになった者です。単刀直入に言う、僕たちはバリーのシンジゲートを狙っている。やつらを麻薬密売容疑でしょっぴいて、なんとか一網打尽にしてやりたい。それにはなんでもいい、やつらの情報が不可欠なんだ。そこには必ず何か手がかりがある。」

『わたし、あなたが何をいってるのか、全然わからないです。』

さくらはノートにさらりと書いた。

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