僕はその手をそっと握ることしかできなかった
あなたの幸せを願っています
翌日。

空撫さんはいつも通り朝練に出ていた。

迷いのない剣筋は他を圧倒していた。

副部長、相手でもそれあ変わらない。

いや、今日はいつも以上に激しく思えた。

ドンという鈍い音が聞こえた。

全員の目が音のするほうに向く。

副部長が通常では有り得ない場所で倒れていた。

対する、空撫さんは試合開始の位置から全く動いてはいない。

「空撫、お前何を・・・」

「ただの突きじゃない。ただの」

淡々とした声が、道場に響いた。

朝練の終わり、部長が空撫さんを呼んだ。

全員の前で部長が口を開いた。

「空撫が、本日を持って、剣道部を去ることになった。残念なことだが、空撫の未来を快く送り出してやろうじゃないか」

「みんな、今までありがとう」

誰もが言葉を発せないでいた。

でも部長が、拍手を空撫さんに贈ると、みんなそれに倣って拍手をした。

沢田副部長だけはずっと、空撫さんを睨んでいた。
< 25 / 36 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop