空色


といっても、あたしは彼の連絡先を知ってるわけじゃない。

むしろ何も知らない。

今もまだロンドンにいるのかさえ本当のところは分からない。

ただ彼は、あの後すぐにロンドンへと旅立った。

全てをここに残して…

何も持たずに、全てを捨てたんだ。

だからあたしにも会いたくなんかないはず。

分かってはいるのに、つい想像してしまう。

ロンドンで彼が、どっかから聞きつけて、あたしのライブに来てくれることを。

ついつい期待してしまうあたしは、かなりのバカかもしれない。

“…モーガン?聞いてる?”

不意にライアンの顔が目の前にあって、彼のエメラルドグリーンの瞳があたしを覗きこんだ。

“ごめん、ちょっと考え事。パスポートどこやっ…!”

ライアンの唇が、いつものようにあたしの唇に落ちてくる。

確かめるように。

あたしを現実に引き戻すように…



あれから、彼はあたしに愛してるとは言わない。

あたしの気持ちも聞かない。

ただ何もなかったかのように、以前と同じ関係を続けてる。

でもあたしは、彼の気持ちを知ってしまった以上、このままじゃいけないとは思ってる。

でも何も出来ずに、彼に甘えてるあたしは、最低な女だ。


今もこうして、また彼の不安に答えるように、深く深く彼を求めるんだ。


ホント最低。


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