不思議の国のアイツ -暴走族総長純情伝-
「ミヤビ、やめて。」
私は、リョウにさらに詰め寄ろうとするのを止めた。
ただ、それは、別に2人のために止めたのではなくて、もう、これ以上の揉め事はたくさんという気持ちからだった。
「ルミ・・・・。」
ミヤビが、心配そうな表情で私を見つめている。
しかし、今の私にそんなルミに返事をする余裕さえなかった。
「おい、これ帰る時に持っていけ。」
そんな私とルミにリョウが、店の奥から傘を2本持ってきてくれた。
「・・・ありがとう。」
私は、リョウから2本の傘を受け取ったが、ミヤビは、先ほどのことがあったので、受け取らなかったし、ありがとうの言葉もリョウに言わなかった。
しかし、そんなミヤビの様子には、まったく触れずに、私に2本の傘を渡すと、リョウは、さっさと店の奥へと入っていった。
それから、しばらく、私とミヤビは、イスに座って、普段、家で飲んでいる紅茶とは、まったく別物の砂糖を入れていない本物の紅茶を飲みながら、ただ、窓の外に見える雨を眺めていた。
ザアアアアアァァァァ・・・・・・・・・
外の土砂降りの雨は、いつまでも、降り続いていた。
1時間後、ようやく小雨になったところで、私とミヤビは、ケーキ店を後にした。
「・・・ルミ、元気だしなよ?・・・ルミが、悪いわけじゃないんだからさ。」
ミヤビは、私が、茫然自失で窓の外の土砂降りの雨を眺めていた間、ずっと、無言でただ、側に座っておいてくれた。
「・・・ミヤビ、ありがとう。」
私は、笑顔をどうにか作って、お礼を言った。
今、私の心境で出来る精一杯の笑顔だったが、やはり、ぎこちなさは隠せなかった。
「いいよ。気にしないで。」
ミヤビは、そんな私の笑顔を優しい目で見つめてくれた。
そして、私とミヤビは、それ以降、無言のまま、駅まで歩き、乗る電車が違うので、駅で別れた。