不思議の国のアイツ -暴走族総長純情伝-
「おいし~。」
コウのうれしそうな声が、台所に響き渡る。
「・・・・お母さん、もしかして、コウの食べてるプリン・・・私のじゃないよね?」
私は、いったん部屋に行ってから、着替えて来て、この場面に出くわした。
「あら、誰の名前も書いてなかったわよ?」
シラをきる母親。
「・・・最低。」
私は、母親を睨んだが、母親は、そんな私の視線などどこ吹く風だ。
まったく気にした様子もなく、コウが、プリンを食べるのを眺めている。
私は、コウの向かいのイスに座った。
コウは、そんな私の行動を目だけで追っている。
「・・・コウ。」
私は、真っ直ぐにコウを見つめて、名前を呼んだ。
「ファイ。」
コウは、プリンを食べるために口の中に入れたスプーンを、そのまま口の中に入れた状態で返事をした。
「何で、私が、こんなに怒ってるのか分かってるの?」
「ファイ。」
コウは、姿勢を正して、手は、ひざの上に置いた状態で聞いているが、口からは、相変わらず、スプーンの柄が出ている。
「・・・だったら、何で、あんな公共の場で喧嘩なんかしようとするの?しかも、私の友達に怪我までさせて・・・。いったい、あの織田・・・リョウって人とコウは、どういう関係なの?」
「・・・・フォフェファ・・。」
「コウ・・・何、言ってるか分からないから、スプーンを口から出して。」
私は、疲れた表情でコウに言った。