想うのはあなたひとり―彼岸花―


なんで、どうして。
さっきからそればっかり。


目を閉じると皐の顔しか浮かんでこない。
必死で椿の顔を思いだそうとするがすぐ消えてなくなってしまう。


どうしちゃったのかな。
皐の顔が浮かぶたび、胸がどくんと弾むの。

…私最低だよね。





夕方が来て、夜がきて、朝がくる。
その移り変わる世界の色を窓から眺めていた。
私が眠りにつくまで、皐は帰って来なかった。
足音が聞こえなかったから。
ちょっとだけ期待していたんだ。
もしかしたらインターホンが鳴るんじゃないかなって。
でも鳴らなかった。

何を期待しているんだろう。



私は寝る前に椿からもらった手紙を読んだ。




“会いたい”




その言葉を読んだ瞬間、椿の顔が浮かんだ。
今度は消えずにずっと残っていた。



だから安心して眠れたのかもしれない。



椿、ごめんなさい。
私…あなたの知らない人と…



キスをしました。





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