ハニー*スパイス


「僕からも、アナタに伝えたいことがあるんです」


「伝えたいこと……?」


「ええ」と山口さんは話し始める。



「母親が亡くなっても、岳がなかなか日本を離れようとしなかったのは……アナタがいたからだと思います。
僕はあの絵を見て、そう確信しました」


「……」


「岳はあの絵を、ニューヨークについてすぐに描き始めたんです。
やらなきゃならない仕事が山ほどあるっていうのに、それには手をつけず、それこそ寝食も忘れて没頭していました」


「……」


「実は、あの絵を売って欲しいと言う人はたくさんいました。それこそ、ものすごい額の金を積まれたことも。だけど、岳はあの絵だけは絶対に手放そうとしなかったんです」


「……」


「あの絵の赤は、言葉にすることができなかった岳の、アナタに対する情熱の表れだと、僕はそう思っています」


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