halfway <短>



きっと彼にとっては、取るに足らないような、日常の1コマなのだろうと思う。

数年後には、記憶の片隅にも残っていないような……


だけど、私にとっては、何よりも、どんなことよりも、心を揺らした一瞬だった。



そして私は、一度開いてしまった扉の閉め方を、知らなかった。


導かれるままに、ただ前へと突き進んだ。



彼の笑顔を探して、一歩。

彼の優しさに触れて、また一歩。

彼の寝顔を発見して、さらなる一歩……


そうして、いつしか、もう戻れないところまで、あっという間に駆け出していた。


キリのない“新しい彼”を発見するたび、気持ちは、加速度を付けて。



もっと近付きたい。

傍にいたい。


触れてみたい――



確かな感情は芽生えているのに、それでも、彼を私だけのものにしたいとか、

そんな独りよがりな激情に駆られることのない自分が、少し不思議でもあったりした。


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