*title*未定*



テラスで、意味の有無が分からない言葉を連ねた放送に耳を傾けた。
時折ノイズが混じるのはラジオの所為か電波の所為か。
しかし、“ジジッ…ジッ……”というそのノイズは淡々とした放送に抑揚を付けている様で、心地良い。



カタン、と音がした。

ラジオの隣に切子洋盃が置かれる。
中に見えるのは菫色。
冷えているらしく、洋盃の表面はうっすら汗が浮かぶ。


「山葡萄、沢山取れたんだ。」


足元から聞こえた声に視線を向けると、
マジックハンドを脇に抱えた、天鵞絨の毛並みを持つ黒ウサギが首を傾けて見上げていた。
背丈は少女の腰位までしかないその黒ウサギは、ある時期の少年しか持たない透明な水晶の様に澄んだ声で言葉を紡ぐ。


黒ウサギはリジーと呼ばれていた。


少女がそう呼んでいたから、みんなにそう呼ばれるようになった。
しかしそれが彼の本当の名ではないという事実は、少女しか知らない。
そして、それは大した問題ではなかった。


「温室、昼ぐらいに“青の薔薇”が咲くかも知れないって。見に行く?」


紅玉の眼を瞬かせ、リジーは少女を見つめる。

 
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