キミは聞こえる

「代谷さん?」
「え。あ、いや、なんでも、ない、けど……。それより、こんなとこまで引っぱっちゃってきて、ごめん。反対方向じゃなかった?」
「ああ、私の家(うち)? うーん、いつも帰ってる方向とは逆だけど距離はそう変わらないかな。うん、大丈夫だよ」
「そう、それならよかった。―――って……なに?」

 ふいに袖を引っぱられて、佳乃へ視線を向ける。と、彼女はつんつんとどこかを指さしていた。

「……なか、もり、商店?」
「そう。せっかくここまで来たんだから一緒になんか食べていこう、ねっ代谷さん」
「えっ、だ、だけど……」
「ここのたいやきとたこ焼きがほんとうに美味しいの! たい焼き二個とたこ焼き一つが同じ値段なんだよ。私、たい焼き買うから代谷さんたこ焼きね」

 そう言うと佳乃は泉の腕を取り、問答無用で商店の奥へと彼女を引きずっていった。

「えっ、あ、ちょっと!」
「―――おじさん、たい焼き二つとたこ焼き一つお願いしまーす」

 「あいよー」という声が店のさらに奥から返ってきたのを聞き届けると、佳乃はこっちこっちと手招きした。

「よかったね、がら空きで」
「そ、そうだね」

 頷きながら泉は内心げんなりしていた。
 どうして猛烈ダッシュした直後にたい焼きやたこ焼きを食べようと思えるのかまったくもって疑問でならなかった。
 いくら美味しいからと言えども、いま身体が激しく欲しているのはそこのケースに入っているカップアイスで違いないのに。
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