キミは聞こえる
 ―――それは、二学期中間試験の結果が張り出された日のことだった。

 泉が中学時代まで過ごした私立栄美女学園では、定期試験その他の試験が行われたとき、試験が実施された二週間後に各学年上位30名の名前が掲示板に張り出されることになっている。

 泉は三番だった。
 一番落ちた、と人だかりの一番後ろからぼんやりと張り紙を見上げながら思った。理科でずいぶん点を落としたからなぁ、と。

(まぁ、いいか)

 順位が下がろうが、点が下がろうが、またその逆であってもあまり気にせず、喜びもくよくよもしない泉である。
 べつに恥じる結果ではないし、父の藤吾は娘の成績にたいして関心がない。その血を受け継ぎ、本人であるにも関わらず泉もまったくもって興味がなかった。
 本心から言えば、教室から出てくるのが面倒であるため見なくてもいっこうにかまわないのだが、見ないと見ないで定期的に行われる担任との面談の際、『結果を知らない? おまえ、自分のレベルを知っておくことも成績向上につながるんだぞ。栄美をなめてるのか』とぐちぐち説教をされ、睨まれるため、しぶしぶ教室を出てきた次第だ。
 確認が終わり、さぁ教室に戻って昨日買った小説の続きでも読もうと踵を返した。
 そのときだった。

≪許さない………!≫

 ふいに聞こえた女の声。
 地獄から湧き上がってくるような、冷たく、残酷で、まるで呪いかと突っ込みたくなるほどに聞く者を震え上がらせる響き。

 おもわず足を止めて、振り返った。

 驚いた様子であたりを見回す泉に、どうしたの、と彼女の後ろを歩いてきていた生徒が尋ねた。
 小学校からの顔なじみである九條亜矢嘉(くじょうあやか)だった。



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