キミは聞こえる
『そんなこと、したって、自分のためにならない。あんなやつのために、どうして私が自分を偽らなきゃいけないんですか。あいつに、そんな命令を下す権利なんかない……ッ!』

 語尾が震えていた。
 泣いているせいじゃない。
 もちろんそれもすこしはあるだろうけれど、彼女の喉を奮わせている一番の原因は怒りだ。

≪五十貝のカスが………ッ≫

 ぞくっと、またもや背筋を冷たいものが通り過ぎていった。息を飲んだ音が危うく漏れそうになって泉は慌てて口を押さえた。

 いまのは、理那の心の声だ。そう、はっきりとわかった。そして、
 これが紛れもない真実―――真の声なのだと、泉はそのときはっきりと理解した。

 心の声は嘘偽りないその人本人が浮かべたありのままの思い。口にすることはいささか憚られる真っ直ぐすぎる己の気持ち。本心。

 これまでも、そしてつい先ほど聞いた五十貝の"声"も、いまの理那の"声"もすべて、それらはその者が頭に浮かべたその者の本当の感情だったのだ。
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