キミは聞こえる
 鈴森町の山奥にひっそりと佇む鈴風(すずかぜ)館という小さな古宿の一室に泉たちは泊まっていた。

 八畳間、四人一部屋の和室で、い草と木のどこか懐かしい匂いが部屋中を漂う。これでお茶でもあったら最高だ。茶菓子があればなおよい。

 部屋に通されてから泉の定位置は窓近くのぐったりもたれかかれるイスの上だった。
 そこの床だけフローリングが敷かれくつろげるスペースになっている。

 外の景色が見たいと班員の一人、千紗(ちさ)が言ったためカーテンはしていない。

 もっとも、もう暗くて何も見えないのだが、閉めようとは誰も言わないので泉もそのままにしている。立つのが面倒くさいこともあった。

「どーしたの泉。そんなにがっくりしちゃってさ」
「なんか変なもんでも見えた?」

 千紗につられ顔を上げたのはもう一人の班員、響子(きょうこ)だった。

 ふだんコンタクトの彼女は、夕飯が終わって部屋に戻ってきてから眼鏡をかけている。風呂用だと言っていた。なんだか新鮮である。

 ちがう、と泉は首を横に振った。

「いつになったら順番回ってくるかなって……」
「順番? あー、風呂のこと? そういえば遅いよね。多分だけど、いちばん時間くってるの四組だよ。あそこナミエがいるとこだもん」
「それ言えてるー。あいつ風呂場で騒ぐんだよ。中学んときもさんざんはしゃいでた。ま、楽しかったけど」
「騒ぎまくって時間めっちゃずらして怒られて。でも、全員のぼせかけててセンセーの話これっぽっちも聞いてなかったってゆーね」
「あはは。そうだったそうだった」
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