キミは聞こえる
「みっ、みっともないってなんだよ! 俺はかなり真剣に悩んでんだぞ!」
「好きならそれでいいじゃねぇか。高嶺の花とか、動揺してくれないとか、両想いになれないとか、そんなことよりまずはおまえの気持ちだろ。なにをそう必死になって隠す必要があるんだ?」

 責め立てるような響きはこれっぽっちもないのに、小野寺の言葉はこれ以上ないくらいに強く桐野の胸を締め付ける。


 好きならそれでいい。


 なんて綺麗な言葉なんだろう。―――小野寺が言うと。

 俺は思う。


 なんて…嘘っぽい言葉なんだろう、と。


 ……そんなこと、わかってても認められるもんじゃない。
 俺が言ったらその台詞はただの逃げ文句になる。意地を張ってるだけにしか聞こえない。

 そんなふうに、考えられない。耐えられない。

 そんな余裕がないんだ、もう……


 俺の、気持ちは。


「俺は、小野寺みたいにはもう…いられねぇんだよ」

 栗原にはマジで、両想いにもなりたいけれど、とりあえずは好きというその気持ちだけで充分だというそんな…言葉は悪いけれど…手ぬるい思いで、俺は代谷を見てはいない。

 呟くと、小野寺は首を傾げた。

「ん? なんか言ったか?」
「……なんでもねぇよ」
「そうか?」

 腑に落ちない様子の小野寺だったが、残念ながら時間切れとなってしまった。
 このY字路を桐野は右へ、小野寺は左へと向かっていく。問い詰めるにはすこし時間に余裕がない。小野寺もそれはわかっているようだった。
 まあいい、と前輪を進む道へ向けて、よっとサドルをまたぐ。

「明日、お互い選ばれてるといいな」
「おう。しっかり栗原に伝えろよ」
「人のこと言えんのかよ。じゃあな」

 それまでのろのろと回っていた車輪は、乗り手がペダルをこぎ始めると軽快に走り出し、闇へと小野寺を連れ去っていった。

 それを見送って、桐野も歩き出す。等間隔に並んだ街灯の先、今はまだ見えないけれど、この道を進めばじきに代谷の大きな家が見えてくる。

 いまはいない仲間に向かって、桐野は背中越しに呟いた。


 うっせぇよ。
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