キミは聞こえる
 とはいえ、一般人がそこまで知ることはまずない。

 内部では毎日が勉強勉強ばかりのぴりぴりした破裂寸前の風船状態だが、本当のところは欠片も理解してもらえていないのが現状である。

 一般的に知られているとことしては、華やかで、美しくて、しとやかさと気品に溢れなおかつ賢いという、どこをとっても申し分ない完璧さである。

 学校の外観が校舎とは思えない洋館のような造りであることがそういった輝かしい妄想をもたらすのだろう。

 門から奥へ一歩踏み出せばそこから先はストレスと成績に埋もれる泥沼地獄だ。

 泉はあまり周りに左右されない人間なので、どこのグループにはいることもなく、成績下層組でぶつかり合うこともなかったからとくに苦痛はなかったけれど、もちろん、そうじゃない者も多かった。

 耐えきれなくなって辞めていく者は後を絶たなかった。泉の学年も、毎年十人は入れ替わりがあったから。

 才能があっても、心がついていけなければいつか人はおかしくなる。精神が冒されたかつてのクラスメイトを泉は何人も見てきた。

「栗原さんは見た目で判断しすぎてる、あそこはそんなきらきらした目で見つめるようなところじゃない」

 などと言ったら彼女はどう思うだろう。

 栄美に強い憧れを抱いているらしい彼女にそんな夢を壊すことを言ったら。

 きっと、傷つく。

 でも、それが現実だ。私が今までいた世界。
 いつも重く張り詰めた空気が充満していた薄暗い世界。


(……どうして、こんなこと思うんだろ)

 今まで、一度としてそんなこと、考えたこともなかったのに。

 栄美の内情など、気にしたことすらなかった。

 父との生活を思い出したさきほどからそうだ。

 部屋を出る前から、私はどこかおかしい。


 一体、どうして?

< 44 / 586 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop