キミは聞こえる
「桐野くんち、今日ハンバーグだね」

 桐野が鼻をひくつかせる。

「そうかも」
「いいな」
「好きなのか?」
「うん」

 特に今は、病院で美味しそうにハンバーグをほおばる翔吾を見た後だから、無性にハンバーグが食べたい気分だった。

「じゃあ上がって食ってけばいいじゃん」
「いいよ」

 食べ盛りが三人もいるのに貴重な肉を泉がいただくわけにはいかない。

「今度、美遥さんに頼むから」
「遠慮すんなよ」
「だったらこの間みたいに予定を立てた上でまたご飯に呼んで」

 大家族で卓を囲むというのはやはりいい。
 桐野家と食事をするのももうほとんど抵抗を感じない。

「わかった。母ちゃん、それ聞いたらきっと喜ぶぞ」
「じゃあ私はここで」
「送って行かなくていいのか」
「いい。まだ明るいし」

 家を通り過ぎてまで送ってもらうなんて忍びない。

「そうか。じゃあ気を付けてな」

 頷くと、泉は踵を返した。

 歩き出して――出そうとして手を掴まれる。

 振り向きざま、思い掛けなく唇に桐野のそれが重なった。

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