キミは聞こえる

五章-5

 玄関に降りた手塚はそれでも十分泉より背が高い。

 すっかり陽の長くなった六月、不安定な天気の日が多いとはいえ今日は一日雲一つない快晴である。

「今日、東京にお戻りになるんですか」
「ああ。それから、これが資料だ。同じ物を三年のときにも配ったが、一応もういちど渡しておく。編入に関しての説明も載っているから目を通すように」
「はい」

 基本エスカレーター式の栄美女学園、何事もなければ皆高等部に進学するのだがそれでも形として願書と入学案内の資料は配付される。

 表紙を飾るのは、毎日見ていた高等部の華やかな校舎。
 学舎とはとても思えないまるで洋館――いや、もはや城である。

 写真を見ただけでも唖然とするが、中には信用していない者もおり、どうせ写真の効果だろうと生意気にもほざく輩がいるが侮るなかれ、本物は写真の比ではない。

 見た途端、現実離れしたその外観に思わず圧倒され言葉を失う。

 地方から修学旅行に来た学生らがこぞって見学に来る、もしくは知性の欠片でもあやかろうとバスツアーが組まれるほどのある意味観光施設となっているのだ。


「ところで代谷。理事長室の前でのおまえの安田先生に対する態度、あれはいったいなんだ?」

 やや厳しい視線が投げかけられる。

「すいません……」
「何があったのかは知らないが、相手は教師だ。ここは栄美ではないとはいえ、先生は先生なんだからな。確かに教師にもいろいろといるが、まずは敬う姿勢を見せなければならない。あの態度は褒められたものではなかった」
「……すいません」

 肩を落とす泉に、まぁ、と手塚は前髪を分ける仕草をしながら言った。
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