キミは聞こえる
　すると佳乃は意外にも泉から視線を外さずに答えた。

「言われたときはたしかにショックだったよ。だけど代谷さんの言うことももっともだって思ったから」

　泉はきょとんとして佳乃を見返した。

　目の前の彼女はいったい誰だろう。

　本当に、先ほどまで自分の意見すら周りの助けなしでは言えなかったあの栗原佳乃だろうか。

　呼吸を整えた佳乃がちょこんと隣に並ぶ。

「だから、私も三人のこと疑うことにする」

　にっと口角を上げる佳乃に、泉は小さく噴き出した。

　彼女は強い。

　少なくとも私などよりずっと強い。

　ここまで短時間で変われるのだ、笑えるのだ、道を間違えなければ彼女はちゃんと周りにとけ込める素質を持っている。　

　佳乃はいま、波に乗ろうとようやく一歩を踏み出したところだ。

　それなのに、ここでまた、元の彼女に戻すわけにはいかない。

　なにより、

　自分が自由になりたいから、面倒は極力ご免だから、佳乃には強くなってもらわなければ困る。

「行っていいの？」

　訊くと、佳乃は頷いた。

「うん。行こう」

　泉は向きを変えて男子たちがいる階へと歩を進めた。
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