キミは聞こえる
「ったくよぉ! なんで女子が男子より起きんのおせぇんだよっ!」
「うっさいわねー! 女子だって眠いときは寝んのよっ」

 昨夜のニキビと千紗ががみがみといがみ合う。

 泉を含め四人が、朝食を取るはずだった広間に行ったとき、すでに食事もろとも生徒はいなくなっており、

 残って一人、優雅に食後のティータイムを満喫していた保健室担当に尋ねると、もう全員宝探しに外へ出たと言われ、現在。

 玄関で待ちぼうけを喰らわされた男子たちと合流し、周りより20分遅れでようやく宝探しをはじめた泉たちである。

 泊まっている宿の向かいが冬になるとスキーのゲレンデに変わるという草原で、そこのどこかに宝が隠してあるらしい。

 木の陰なのか、地面に埋められているのかはそれぞれで判断して見つけ出すようにと言われたが、

 シャベルなど渡されたのでは、埋まっていると言っているようなものではないか。

 それとも、そう見せかけての実は木の陰に置かれているとか……?

 未だぶつぶつと言い争う二人の喧嘩を右から左に聞き流しながら、一人班を離れてふらふらしていると、

「見つかったかー?」

 しっかり朝食を摂る事が出来たシャベル担当の桐野は、登り坂でも傾斜を感じさせない軽やかな足取りで駆けてくる。

 朝っぱらから目障りなくらいに爽やかで、どこまでも無邪気に嫌味な男だ。

「見つかったら呼ぶでしょ」

 なぁい、とか、まだだよぉ、とかいういかにも女の子が言いそうな返事が当然のごとく返ってくるものと予想していたのだろう、

 簡潔すぎで、かつ愛想の欠片もない言葉に、桐野は声を失った。

「……そ、それもそうだな」

 よりよい日光浴ポイントを探してきょろきょろする泉を、またしても桐野が呼んだ。
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