キミは聞こえる
 余計なお世話だ、と泉は眉をひそめた。

 桐野に聞こえないほど小さく息をついて、泉はぼそりと本音をこぼした。

「こういう環境で育つと桐野くんみたいな子が出来るのか」
「おい。それどーいう意味だよ」

 桐野は唇をとがらせてじろりと泉を見た。
 
「そのままの意味だよ。どこまでも自由」
「自由なのはおまえもだろ。ちょ~マイペースでさ」

 あんたほどではないと思うのだが。

 そう言ってやろうかと喉元ぎりぎりまで思ったけれど、面と向かってマイペースを否定できないことは事実で、それは友香からもよく注意されていることだ。

 泉は息を吐いた。

「―――まあ、いいか」

 いつどんなときでも使える万能逃げ文句を呟くと、泉はさっと踵を返し、川を背に来た道を戻りはじめた。

 もちろん、桐野は置き去りにしたままだ。

「ちょちょちょっと代谷! ったく、そういうところがマイペースだって言ってんの! おいこらー! たまにはまともに俺の話を聞けーっ!」

 神聖な場に不躾な足音を立てて追いかけてくる桐野に、泉は自然と速度を上げて佳乃たちのもとへ急いだ。

 
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