キミは聞こえる
『よかった』

 言って目許をほころばせると、千紗と響子は顔を見合わせて、揃って眉をひそめた。

『泉って、栗原さんと仲いいんじゃないの?』
『友達じゃないの?』

 泉はがっくりと肩を落とす。

 ……一緒にいるからと決めつけないで欲しい。

 たしかに、最近やたらと傍にはいるけれど、それは泉が呼んでいるわけではもちろんなく、ましてや佳乃が寄ってくることを待ち望んでいるなどもってのほかで、

 いつも四六時中一緒にいるようなおたくらとは違う、と泉は全力で叫ぶ、心の中で。

 近くで接していることと親しいをイコールで結びつけられたらもう、立ち直れない。

 マジで泣いちゃう。学校に来ることを全力で拒む。

『泉ってさぁ、わっかんないよね~』
『ほんとだよ』

 ……ほっとけ。

 進みの悪い昼食を飲み込みながら、止まる気配のない佳乃のおしゃべりにこめかみのあたりが痛くなってきた。

 出来ることなら一人でいたいし、食事中ぐらいぼーっとしていたい。だらだらしたい。ぶっちゃけると、寝ていたい。

 それなのに。

「じゃあさじゃあさ代谷さん―――」

 この間までのもじもじ少女はどこへやらだ。

 泉は今度こそ額を押さえ、押し寄せる頭痛に必死に耐えた。

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