Strange
かけがえのない出会い。
━━「私ね、手術するの。そのためにアメリカへ行く。」
あまりにもサラリとアリスの口から出たその一言は僕とリョクの時間をほんの一瞬止めていた。

「医術は日々進化してるから、いろんな新しい方法で病気が治るようになってるみたいでね。」
目の前で話しているアリスは笑っているのに笑っていなかった。
「移植手術しなくても、遺伝子治療とか薬とかと新方式の手術っていうのをすれば私の病気は治るかもしれないんだって。」
狭い店内だから、いくら気を使って少し離れたカウンターで僕らの様子を見守ってくれている藤堂夫婦にも話の内容は筒抜けだっただろう。美沙が藤堂に寄り添うようにその胸に涙をこらえるような表情を押し付けたのが視線の端に見えた。

「私のかかりつけの病院と親交のあるアメリカの大学病院との新しい試みでね、成功の可能性は………」
何かを言おうとして、でも言葉が出ない様子でリョクは眉根をよせてうつむいてアリスの言葉を待っている。
「………30%」
「さんじゅ…う?」
間の抜けた声を出してしまった気がした。
「初めての事だから確立は五分五分なんだけど、でもやっぱり難しいことだからそれくらいの確立だと思って欲しいって。」
「…な…そっ…それはアリスじゃなくちゃいけないの?」
言ったリョクの手は机の上で震えている。
「えっ?」
「アリスが実験材料になる必要ないじゃないか!」
「………」
「そんな、そんな事…」
「…リョク」
アリスは震えるリョクの手にそっと自分の手を重ねる。
「ありがとう。でもね、私はその話を聞いて自分から自分を使ってほしいってお願いしたの。だって、移植手術をしても確立は変わらないもん。手術をしなくても私は死ぬから…だからね、だったら可能性にかけてみたいの。奇跡を信じてみたい。……それってロマンだと思わない?」

笑顔のアリスの瞳から涙がこぼれ、リョクも…。
僕はそんな二人のすぐ近くにいるのに何故だか一人だけ遠くにいて、まるでテレビドラマを見ている感じでその様子を見ているように思えて、現実なのかフィクションなのかわからなくて、ただスッキリしない頭はアリスの話を全て理解していたんだ。

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