狐と兎
花が開いたと同時にハルトは苦しむような様子を見せる事もなく、目を閉じました。

それを見たキルシュは察しました。ああ、もう恋人ではないんだなと。


「名前で呼んでくれたの、最初で最後かもしれないね。
呼んでくれたの嬉しかったのにもう聞けないなんて寂しいよ……」


それと同時に雪が舞い始めました。秋真っ只中での雪は異常現象が起きているようでした。

白く淀んだ空の下で眠るハルトを抱き締めて、キルシュは目を閉じました。

そうやって2人だけで長い長い時間を過ごしました。

その後キルシュはハルトを抱えて里へと戻り、

オルヒデにハルトを渡すとそのままオルヒデの言葉も聞かずに家へと戻りました。

家では心配したとこっぴどく叱られましたが、キルシュはまるで抜け殻のようでした。
< 88 / 96 >

この作品をシェア

pagetop