さよなら、もう一人のわたし (修正前)
「ごめん、雨が降り出したから大丈夫かなって思って」

 心配して戻ってきてくれたんだ。

 冷え切ったあたしの心に温かいものが宿るのが分かった。

「すみません」

「千春のせいで嫌な思いをさせた?」

 あたしが伯父に彼女と比べられたことを言っているのだと分かった。

「いいえ。そんなことないですから」

 しかし、涙というものは手や足と違って自分で完璧に操作できるものではなかった。

 あたしの目から涙が零れてきた。

「家のごたごたに巻き込んでしまって悪かったな」

 尚志さんはそう言うと、あたしの頭を撫でた。

 あたしは首を横に振っても目から涙が溢れてきた。

 あたしは思わず尚志さんの腕をつかんだ。

 誰かにすがりつきたかったのだと思う。

 あたしの体に雨が突き刺さる。

 あたしの傍にいる彼も同じ状況だったのだとは思う。

 彼はそんなあたしを引き剥がすこともなく、ただ、ずっと傍にいてくれた。
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