さよなら、もう一人のわたし (修正前)
 その日の夜、あたしは尚志さんに電話をした。

「もしもし?」

 不思議そうな尚志さんの声だった。

 それは当たり前だ。彼はあたしの電話番号を知らないのだ。

「あの、千春の友達の京香です。覚えていますか」

 忘れられていることはないと思いつつも、丁寧に自己紹介をしておく。

「ああ、京香ちゃん? どうかした?」

 どう聞けばいいだろう。

 あたしは何かを聞こうと思ってもうまく言葉が出てこない。

「千春から聞いたんですけど」

「水族館のチケット? あいつ一枚しかないからって俺によこして」

「千春からもらったの?」

 あたしはそのとき千春の狙いが分かった気がした。

 あたしたちをデートさせようと思ったのだろう。

「いるならあげるよ。そうせ使わないし」
< 117 / 577 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop