さよなら、もう一人のわたし (修正前)
 監督の声が響き渡る。

 今日、何度目だろうという言葉だった。

 彼はあたしの目の前に立つ少女に歩み寄っていった。

 彼女に何度も同じことを注意する。

 あたしはうんざりしていた。

 今、撮影しているのは果歩が友人に勇のことを話すシーンだった。

 嬉しそうな顔をした果歩が笑顔で友人に言う。

 そんな果歩を見て、友人が笑顔で返すのだ。

 よかったね、と。

 しかしただそのシーンを撮るのに何度も撮り直しが続いていた。

 何度もNGを出しているのは沢井ひろみだった。

 彼女は笑わずに憮然とした表情で言葉を返しているのだ。

 彼女はあたしの前では一度も笑ったことがない。

 彼女はわざとやっているのではないかと疑いたくもなる。
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