さよなら、もう一人のわたし (修正前)
「それで?」

「なかなか見つからなくてね。でも、あなたを見つけた。あなたが出た文化祭の映像を見る機会があったの。

それを見て、あなたならできるかもしれないって思った。それでいろいろあなたのことを調べて、転校してきたの」

「そうなの?」

「あの会場にいたのも、あなたの話を聞きたかったから。すごい自己主張が強い子だったらやりにくいし」

 彼女はそこで息を吐く。そして、優しく微笑む。

「でも、あなたでよかったわ」

「そんなこと」

 千春に言われると思いもしなかった。

 彼女の表情から笑みが消える。彼女は唇を軽く噛んだ。

「あたし、一つあなたに黙っていたことがあるの」

 彼女はまっすぐな目であたしを見据える。

「何?」

 あたしは彼女の瞳から目を離せなかった。

「あなたは知っているの? 自分のお父さんのこと」

 あたしは言葉につまる。言わないと約束した。約束したのに。

 あたしはどうしていいか分からなかった。


< 441 / 577 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop