さよなら、もう一人のわたし (修正前)
 尚志さんがあたしの頬をつねった。

 あたしは何も言えずに彼を見た。

 あたしの反応に戸惑ったのか、戸惑いがちな言葉を並べる。

「あ、いや、緊張しているみたいだったから」

 だからといってほとんど面識のない子の頬をつねるのはどうかと思うのだけど。

 しかし、あたしはそこまで顔に出ていたのだろうか。

「伯父は変な人だけど、緊張しなくていいよ」

「でも厳しい人だと聞いたから」

 彼は肩をすくめる。

「映画のことは聞いたんだよね?」

 あたしは頷く。

「伯父は千春にぞっこんだからね。あまり気にしなくていいよ」

 どんなことでも人を心酔させることができるのは本当にすごいと思う。

 それが千春の望んだものではなくても羨ましかった。
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