天空のエトランゼ〜赤の王編〜
そして…感嘆と取れるため息をついた後に、言葉を続けた。

「なぜ癌細胞ができるのか…。長年、謎に思っていましたが…今やっと、答えが出そうですよ」

「答え?」

副司令官は、眉を寄せた。

「ええ!」

髭の男は、大袈裟に頷くと、試験管を天井に掲げ、

「進化ですよ!進化!癌細胞が、すべての肉体を覆い尽くした時、人は新たな肉体と力を手に入れることができる!」

興奮気味に話し出した。

「ば、馬鹿な!あり得ない!」

側近の1人が叫んだ。そして、試験管を指差した。

「癌細胞は、他の臓器を蝕む!そして、次々に転移して、人を殺すのだ!」

「それは、違う!」

髭の男は、首を横に振り、

「死んだ人間は、弱いのだ!進化の痛みに、堪えられなかったのだ!それに、人間の体は生まれ変わるのだ!古い臓器など必要ない!」

きっぱりと言い切った。

「な」

その言葉の勢いに、絶句する取り巻き。

「しかし…今まで、癌細胞を取り除くことなく、生きれた人間はいない」

副司令官は、静かに口を開き、髭の男の目をじっと見つめ、

「仮に…肉体すべてに癌細胞が転移しても生きているとしょう。しかし、癌細胞は、人間の脳をも浸食する。そうなれば…どうなる?」

質問を投げ掛けた。

すると、髭の男は自分の頭を人差し指で示し、

「狂うだけですよ。それが、やつらの実態です」

にやりと笑った。

「!」

目を見開いた副司令官の横を、髭の男は通り過ぎた。

「狂う…即ち、やつらもまた…進化の途中ということですよ」

そして、副司令官達に背を向けたまま…ため息をついた。

「人間の進化の先はどこにあるんだ」

「少なくとも、これの中にはない」

肩を落とす男の横を、副司令官達が横切り…そのまま研究室を後にした。

「邪魔したな」

副司令官は研究室を出る前に、ちらりと試験管の中の細胞に目をやった。

そして、部屋を出ると、廊下を歩く速度を速めた。
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