天空のエトランゼ〜赤の王編〜
「ちっ!」

アルテミアは舌打ちすると、僕に叩き込んだ拳を引いた。

そして、背中から倒れた僕を無視して空を見上げた。

「モード・チェンジ…」

僕は地面に大の字になりながらも、空を見上げて呟くように言った。

次の瞬間、地上にいるアルテミアが消えるとほぼ同時に、雲の上に翼を広げたアルテミアが姿を見せた。

「やつらを見つける」

虚空を睨むと、アルテミアは真っ直ぐに海上を北上した。




「癌細胞…」

副司令官達がいなくなった後、髭の男は試験管を目の前まで持ってくると、うっとりとした目で見つめ、

「お前の素晴らしさを誰も気づかない。この進化の試練に、打ち勝った者が!この世界に生き残り…いずれ人類に!魔物をも凌駕する素晴らしい肉体を与えてくれるのだ!」

男は興奮気味に叫んだ後、

「フフフ…」

含み笑いをもらした。

その瞬間、

「な!」

男は絶句した。

目の前にある試験管に、ヒビが走ったからだ。

そして、試験管は弾けるように割れると、その中にあった肉片が…髭の男の額にへばりついた。

「うぎゃああ!」

肉体が焼ける後と匂いが、研究室に充満した。

初めは悲鳴が上げていたが、やがて…男の表情が恍惚に変わった。

「こ、これが…進化の痛みかあ!」

額を中心にして、男の細胞が裏返っていく。

「わ、私は!堪えてみせる!この進化の試練にいいい!」

男は両手を広げ、天井を仰ぎ見た。

しかし、その言葉が…男の最後の言葉になった。

脳細胞が裏返った瞬間、髭の男の自我は崩壊した。

人間もどきとなった髭の男は、ただ…本能のみを行動目的とした。

つまり、食べると…子孫を作るである。

研究室の扉を開けることなく、ぶち破った髭の男は、早速獲物を見つけた。

廊下を何気なく歩いていた隊員達は、扉が開くことなく人が部屋から出てきたことに驚き、一瞬だけ動きを止めてしまった。

本来ならば、身を守る為の反射行動が命取りとなった。
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