天空のエトランゼ〜赤の王編〜
「高坂先輩…ごめんなさい」

九鬼は、西校舎裏にいくことを後回しにして、理事長室に向かった。

渡り廊下から、南館に飛び込んだ九鬼は、乙女グレーとの戦いの傷痕がまだ残る廊下を疾走した。

「誰が、やった?」

明らかに尋常でない数の乙女グレーを倒したことが、わかった。

しかし、それを勘繰っている暇はない。

九鬼は、一番奥の理事長の扉に手をかけた。

鍵はかかっていない。

中に飛び込んだ九鬼は、焦げ付いた匂いに顔をしかめた。

扉の横に設置されている応接セットのソファが溶けていた。

「理事長!」

そして、一番奥の机にうつ伏せになって、倒れている黒谷を発見した。

机の前の床も、溶けていた。

まだ熱が残る床をさける為、九鬼は扉から壁にジャンプすると、壁を蹴り…天井のシャンデリアを掴むと、黒谷が倒れている机に着地した。

机には、熱がなかった。

どうやら、理事長内に炎を放ったのではなく、炎を纏った者同士で戦った痕であることを、九鬼は悟った。

「理事長!」

うつ伏せに倒れている黒谷を抱き起こすと、もう彼女に意識はなかった。

火傷はおっていない。

殆ど外傷はない。

ただ…こめかみの辺りに、穴があいているのが確認できた。

「理事長!」

今の黒谷は、脳死に近かった。

ムジカにより、脳に何を撃ち込まれ…精神を乗っ取られた黒谷は…操り人形と化した。

その状態でアルテミアと対し、一撃で意識を奪われてしまった。

その瞬間、脳と肉体をつなぐ意識という線が切断されたことになった。

ムジカの操り人形になった者に、意識を取り戻そうとする処置を施した場合、撃ち込んだものが…脳を破壊するようにできていた。

意識が飛んだ場合も、それに当たった。

脳が死んだ者は、しばらくは心臓が動いているが…やがて、止まる。
< 222 / 1,188 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop