天空のエトランゼ〜赤の王編〜
カレンの言葉は続く。

「すべての人間が、力に拘る必要はないと思うが…やつらから、人々を守る存在は必要だ」

「どうして、すべての人間が拘る必要がないのですか?」

「うっ!」

ここで、カレンは言葉に詰まった。答えがない訳ではない。

だけど、あまり言いたくはなかった。

カレンは、浩也から目を逸らすと、

「人は、多くなる程…まとまらなくなる。社会的動物でありながら、個が強い。今の世界を見ろ…。人間という種が滅びそうなのに、人はまとまらない」

拳を握り締めた。

「だったら…人は滅ぶしかないのですね」

「え」

笑う浩也の横顔を、思わずカレンは見つめた。

全身に戦慄が走った。

もし、目の前にいる浩也は、人類の敵になったとしたら…絶望のスピードは加速する。

「浩也!」

「お母様と旅する日々で、僕は人間など見た事もなかった。ただ…お母様を傷つける魔物達が憎くて…倒したかった」

浩也は乙女ケースを握り締めた。

「それだけなのに!」

手が震えていた。

「ここに来てから…人に会ってから、心の底で何かが、叫ぶんだ。守る為に…戦えと!」

「浩也…」

「だけど!その王を倒したからといって、人間は救われるの?人間は、滅びないの!」

浩也の心からの叫びに、カレンは項垂れると、本音をぽつんともらした。

「人間同士が争い、滅びるなら…仕方ない」

カレンは浩也の言葉を聞きながら、己に問いかけていた。

自分はなぜ戦うのか…。

それは、地に落ちたアートウッドの名声を取り戻し…お母様の無念を晴らす為。

だけど、産みの母も育ての母も、カレンが戦うことを望んではいなかった。

我が子に戦うことを望む親はいない。

カレンはフッと笑うと、

「そうだな…。だけど、それでも」

真っ直ぐに、浩也を見て、

「あたしは、人の為に戦うよ」

「どうしてですか?」

「争う人…愚かな人…。そんな人にも、産んでくれた人。育ててくれた人がいる。愚かな人間の一人一人に、その人達がいるなら…あたしは戦うよ」

カレンは、浩也を見つめ、心の中で思った。

(例え…お前が敵になろうとも)



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