天空のエトランゼ〜赤の王編〜
「ご冗談を」

哲也は肩をすくめると、

「私は私ですよ」

「そうでしょうか?」

黒谷は、じっと哲也を見つめた。

その視線の強さに、哲也は少し戸惑ったが…フッと笑うと、黒谷の横を通り過ぎた。

「とにかく、兜博士は私が探します。彼には、きかなければいけないことがありますから」

哲也は、扉のノブに手を伸ばした。

そして、ぎゅっと握り締め、

「乙女シルバーの在りかをね」

と言うと、ノブを回し…外に出た。

バタンと音を立てて閉まった扉を見つめていた黒谷は、深呼吸すると、後ろを振り返った。

「もう1人の自分が、違う世界にいる…。そんな空想事を、私だって信じられなかった。あなたに会うまでは…」

「クスッ」

机の前に腰かけている女を、黒谷は睨んだ。

いつのまにかそこにいた女は笑いながら、黒谷を見て、

「どうして…真実を告げなかったの?さっきの話のほとんどが、あたしから聞いたって」

「九鬼真弓…。生徒会長」

強がっても、黒谷は足が震えていることをわかっていた。

「言ったはずよ!」

九鬼にそっくりの女の眼光が、黒谷を貫いた。

「うっ!」

息が詰まる黒谷。

苦しむ姿を見つめながら、女は言った。

「そんな人間がつけた名を呼ぶな!あたしの名は、デスパラード。闇の女神よ」

デスパラードは机から降りると、手を伸ばし、黒谷の顎を掴んだ。

「心配しなくても、あなたがあたしに協力してくれるなら…この世界には、手を出さないわ」

「ほ、ほ、本当なのか?」

「ええ」

デスパラードは、頷いた。

「あたしがほしいのは、こんな世界ではなく、あたしの体!神話の時代になくした…あたしの肉体よ」

デスパラードは、掴んだ顎を指で弾いた。

黒谷の体が宙を舞い、扉の横にかけてある額縁にぶつかった。

「それに…この世界の新たな神には、神よりも恐ろしい存在が目をつけている。あたしは、そいつと揉める気はさらさらない」


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